「あんた、だれだ!!どうして、おれを殺そうとする!?」
男は、太陽に掲げるがごとく、自分の手をかざした。しかし、それは太陽ではなく、女だった。女は、恨みの目をひんむいて、迫ってくる。手には、これから、凶器になるであろうナイフが握られている。男は、恐怖から、そんな未来を予測した。
「おれは一体、何をしたんだ!?こんな目にあわされるどんな目に!!」
「あの世で、今日子に謝りに行け」
男は、女の声を最後まで聞くことはできなかった。心臓を一突きにされたからだ。凶器は、男から痛みを感じる能力すら奪ってしまった。
しかし、男は、その名前を何処かで聞いていた。
(そうだ、あの時の女の子か)
男は、ごくありふれたことだが、信号無視をした。しかし。その時には限定された事情があった。男は予期しない連れを連れていたのである。
「今日子!」
ぶい!!
男が、振り向くと、とても非音楽的な音がして、少女が空に飛んでいった。巨大なトラックが、少女を蹴り上げたのだ。
一瞬の静寂があって、泣き声がした。
男は、自分が信号無視をしたせいで、少女が巻き込まれてしまったことが理解できなかった。
理解できたのは、そのとき・・
彼女とベッドの上。煙草を燻らせながら、ひそかに、罪悪感を感じた。しかし、天井に消えていく煙といっしょで、瞬く間に消えていった。
それほどに軽薄な罪悪感だったのである。
だが、大掃除のときに、天井の隅に煙草のヤニを見つけるように、罪悪感は消えることはなかった。いま、それが蘇ろうとしている。
男は・・・死・・・完全な意識の喪失までの一瞬。
----――――それを取り戻していた。