“Sunset over the lake ”By Berythe
T木はそこにあった。
おまえの来た道を、ふたつに分かつように。
せかいは、おまえに委ねられている。
ひだりとみぎ、ふたつにひとつ。
炎が支配するひだりか水の支配するみぎ。
U木は、そこにあった。
おまえの来た道を、ふたつに分かつように。
運命は、どちらかに強引に引き込むであろう。
ひだりとみぎ、ふたつにひとつ。
炎が支配するひだりか水の支配するみぎ。
Vこの木をじっと見つめるがいい。なにが見えるか?手にした黄金を失わぬため、焦るおのれじしんだろう。
この木は鏡だ。お前が映っている。それがわからないか。お前はいま、馬に乗っているだろう。
重い甲冑に、身を痛め、骨を削っても、なお得たかった黄金。それはなんだ?
W男は、焦っていた。
彼はかつては武人だった。かつてと言うのは、いまは、そんな名誉はあさっての方向になげうってしまったからだ。
男の初陣は13歳のときだった。父親に連れられて、戦陣にまみれた。
そこで、始めてひとを殺した。相手は老将だった。
その後、主君に膝を折り、恩賞とお褒めのことばを貰った。
男はうまれてはじめて、心を打たれた。この主君に一生を捧げようと思った。
しかし、いまは、そんな名誉・・・・・それは殺人をごまかす非常の策にすぎないが・・・。
そんな名誉さえ、失ってしまった。
W木は知っているぞ、おまえの手が血にまみれていることを。それもただの血ではない。
じぶんたちのためではなく、
大事なひとのためでもない。
もっと言えば、じぶんのためでさえない。
ただの、おのれに巣くった醜い利己心に魂を売ったのだ。そのために血にまみれた。
利己心の代わりの黄金は重いか?
その重さで身体を痛めるほど価値のあるものか?
X男は黄金に輝く甲冑をまとっていた。
「吾ながら、恥ずかし」
そう思ったが、その方法より他に、黄金を掠め取る手段がなかった。
主人を刃にかけたのは、ほんの隙をついたのだ。男が、幼少時代から主人と結び続けた信頼を利用したのだ。
木々の茂る暗所に、主人を誘った。
「えい」と背後から一撃。
主人は倒れた。そして、甲冑を掠め取った。
はじめはそれを抱えて、逃げようと考えたが、うまくいかなかった。しばらく考えた後に、身に纏って逃げる他はないと思いついた。
さすがに、それを着るには勇気が必要だった。
ひとつには、それを着ると他人に見つかりやすいこと。
ふたつには、それがあまりに輝かしいので、醜いおのれの姿が際だってしまうこと。
Y「はやく決断するがいい」
木はおまえに言うだろう。
おまえは決断ができるか?
断固としておまえの目の前に立ちはだかる木に、抗弁ができるか?
すこしでも羞恥心があるなら、言ってみるがいい。
木だけは、おまえのうわごとを聞いてやるだろう。
おまえの住むせかいの物どもは、だれもおまえを相手にするまいが。
おまえに残った唯一の羞恥心だけは認めてやる。
Z男はついに決断を下した。
しかし、そのときである。男の頭に黄金の斧が振り落とされた。
振り落としたのは、男のかつての同僚だった。
「この恥さらしめ」
同僚は、瀕死の男に唾を吐きかけようとしたが、やめた。
なぜならば、男は、同僚が忠誠を誓ってやまぬ主人の所有物を身に纏っていたからだ。
黄金の甲冑。
[男はあえなく成敗されて、彼が住まうせかいの住人、ひいては、その後に住まうであろうひとびとからも、唾を吐きかけられるべきとされるであろう。
しかし、木だけは知っていた。
なにゆえに、男が逃亡に失敗したのか?
ひとつ、残存していた羞恥心のために、輝く甲冑を纏うのに、むだな時間を要したこと。
ひとつ、残存していた羞恥心のために、逃げ道を選び損ねたこと。
\ひだりの道のおくには、燃えさかる炎があった。
街が燃えている。それは新たなる戦場を男に、暗示していた。
男は、馬首をそちらに向かせようとしていたのだ。
ちなみに、みぎには、美しい泉があった。そちらには、泉よりも美しい姫、ふたりが小舟を水に浮かせて、遊んでいた。
羞恥心がすべてを決定した。
平和なみぎを選ぶには、あまりに、男にはまぶしすぎたのだ。
それが原因で、男は荒野に醜い骸をさらすことになった。
とうぜん、主人の甲冑は同僚によって取り戻され、かれじしんの持ち物さえ追い剥ぎに、掠め取られた。
かれが行った罪の報いによって・・・。