『記念の緑scene023』

 

「あれから、四年になるのか」

「そうだな・・・・」

秋の紅葉が燃え尽きる頃、ふたりは遅れた墓参りにやってきた。このころになると、墓参りするのはよほどの物好きか、墓泥棒ぐらいであろう。

----------------―――――――ふたりのばあいは、職業柄、時間の調整が取れないせいで、この季節までずれ込んだのである。

 ここは茅ヶ崎の海を臨む高台。家もまばらだ。こういうところに、県立の墓所がある。

 

御幸が水をかけて清めたが、墓は新築したみたいにきれいだ。そして、周囲に雑草も生い茂っていない。ということは、家族のものが定期的に来ているということだ。

周囲の墓々を眺めまわしていると、かなり雑草が蔓延っている。きっと、ここの管理人はよほどの暇人なのだろう・・・・もっとも、耳目を勝手に瞑って、暇人を決め込んでいるだけであろうが・・・。

 「愛に報告しなくていいのか」

「まあ、そのために来たんだからな」

御幸は、沙織の台詞を受け流した。

墓石を見る。木村家の墓とある。そこに木村愛という名前が見て取れる。昭和575月2日〜平成12121日、享年23歳。

「バンドの話は、いいかげん進んでいるんだろう」

「ああ」

「私に隠さなくてもいいだろう?練習風景見せろよ」

「周一が萎縮するだろう」

「私に萎縮するぐらいで、お前の曲が歌えるか」

沙織は歌うフリをした。

「圭一郎も曲を作るんだ」

「ほう」

「まだ青いが、琴の張った曲を作る」

「ベースとドラムはどうなってるんだ」

「自然に集まった」

「お前らしいな・・自然か」

「成り行きさ・・・・・」

「お前は成り行きでバンドを作るのか」

「五人で作るんだ」

「・・・・相変わらず高校生みたいなことを」

「・・・しかし、あの二人は和解したのか」

「しなかったら、バンドは成立しなかった」

御幸は、慧眼を閉じた。

ここは、海の匂いがする。目を瞑ってもさざなみが見えてくる。

「ファーストアルバムの原型はできたのか」

「ああ」

「でも、その前にバンド名がないだろう」

notitleさ」

「・・まあ、いいや、名前が挙がったらいつでも言えよ、お前の言うとおりのタイミングでマスコミに流してやるからさ」

「話題づくりか・・・・・それにしても、お前、本当に悪役が好きだな・・・これ以上、悪名を背負ってどうするつもりだ」

「マスコミは私たちが作った話に乗って、騒ぎたいだけ騒ぐ。面白いじゃないか」

「ファンがかわいそうだな」

「それは、私も考えた、お前と私は仇敵どうしということになっているのだからな・・・でも、本当のファンならわかってくれるはずだ」

「・・・・・」

「話をでっち上げるのは、先例があるからな・・・あいつらは死ぬほど苦しんだ」

「ひとり死んでしまったと・・・・・・かわいそうにな」

「今度のアルバムで、それを解消させてやりたい。お前に言うまでもないが、創造活動とは排泄行為だ・・・・解消と言わぬまでも、受け入れることぐらいは可能かもしれない」

「直喩か暗喩か」

「当然、暗喩だ・・・・・そして、とある中将さんのはなしを溶かし込む」

「お前のことだ。メロディは浮かんでいるだろう?・・・しかし、まだ、軍人か、お前は本当に戦争が好きだな」

沙織の頭にうかんでいるのは、アルバム『Cesare Borgia』のことだ。Father land最高のアルバムといわれる本作だが、中世イタリアの武将を扱っているだけに、猛々しい内容になっているのである。

 「私の作った曲に、周一が詞を書いた。それが直截的な内容だった」

「いままで、抑えられてきただけに、才能の開花も早かったのか」

「ま、そんなところだ」

御幸は、茅ヶ崎の海風に煽られて、思わず空を見上げた。海を見るのは、どこに言ってもすばらしい体験だが、茅ヶ崎の海は、かすかに甘い味がした。何処かで、アホウドリが鳴いていた。

 



 

 

 


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