『記念の緑 SCENE011』

 

 『記念の緑scene011』   

  bloodskeltonのふたりは、母校の庭を散策している。

広大な庭には、種々の樹木が生い茂り、それはここち良い木立を形成している。何もかも、あの頃と、変わらない。

「おい、 さっきの生徒手帳見せてみろよ」

「あん・・・御幸、これか?」

skeltonが渡したのは、さきほど校門を通過する際、役立ったものだ。おおよそ、10年前の写真が映っている。

「まさに、使用前、使用後だよな」

「言ってなさいよ、あんたなんて、とうてい同一人物には見えないと思うわ」

 SKELTONは言葉使いが、いつのまにか昔に戻っていることに気付かなかった。

bloodは生徒手帳を団扇代わりにひらひらやりながら、さきほど見たskeltonの高校時代を思い浮かべる。そして、それ以前も・・・・・・。

 参内女子学園は中高一貫制を布いている。ふたりが初めて出会ったのは、中学二年になったときである。クラス替えで、偶然ふたりは顔を合わすことになった。

「ごきげんよう」

知力が対等な者どうしは、互いに分かり合うものである。目と目が合ったとき、ふたりは何かを感じあった。しかし、それは意識的に行なわれたものではない。

 人間の意識というものは、多重構造を為しており、何処に中心があるのかも定かではない。

 このとき、ふたりは、こころの何処かであったことを理解できなかった。ただ、おかしな空気が互いの間に充満するだけだった。

 

  Bloodは当時、長い髪をしていた。

いまは、男を思わせるほどにみじかい。

当時、彼女は、背も高かったし、運動神経もよかった。だから、クラスの指導的な役割を果たしていた。

 ここまで書くと優等生みたいに聞こえるかもしれない。しかし、それは表向きのことで、じっさいは違ったのである。

「沙織、お前に出会ったときはおどろいた。私に歯向かってくる奴なんていなかったしな」

「・・ああ・・・・・。」

skeltonはそれしか返事しない。芝生に座り込んで、校庭を見渡す。中等部のテニス部の子達がランニングをしている。

「お前、どうして、私をここまで連れてきたんだ、騙してまで・・・。」

「騙したわけじゃないだろう?一日ずれただけじゃない・・。それもごく理性的な理由によって」

「始まったよ・・・おまえの理詰めが」

「・・・・・・・・」

だんまりを続けるskelton

それに痺れを切らしたのか、bloodは切り出した。

 

 

「ああ」

今度はbloodが黙り込む番だった。

「わたしは御幸と、はやく友達になりたかっただけ・・・自分のためにやったのよ・・わたしは慈善家じゃないのよ」

「・・・・・!!」

「あん?」

「何でもない・・・」

ただ、不意打ちをつかれただけだった。構えていないところに、10年前のことを言われたbloodはこころが、体からこぼれてくるのを止められなかった。

「泣いてんの?」

「そんなことない・・・・」

bloodは彫刻のような顔を反らした。

「わたしはねえ、あんたのことなんでもわかりたいと思うのよ」

ここで、わかると言わないのは、skeltonの優しさだった。そんな言い方がたまらなくこころに沁みるのだった。

 彼女は当時、ストレスで爆発寸前だった。生まれつき与えられた能力に耐えられなくなっていたのだ。13歳の少女には過ぎた能力だった。よくある話で、心が知能の発達についていかなかったのだ。

 天才と呼ばれ、親や周囲からもてはやされることは、逆から言えば、差別されることにつながるのである。

「化け物」

それは母親のことばだったが、悪意があったわけではない。ちなみに、彼女との会話で発せられたことばではなかった。知人との他愛無い会話において、娘の能力を自慢したかっただけだ。

 しかし、bloodはそれを言葉どおりに受け取ってしまったのである。

激しく傷ついた彼女は、ストレスの吐き出し口を探し回ることになる。そして、見つけたのは、クラスで弱い子を攻め立てることにしたのだ。

 それも徒党を組んで・・・。クラスの子たちは、誰もが彼女の言いなり状態であることが状況をさらに悪化させることになった。

 それは一口で言えば、いじめである。それは、中等部、1年の二学期に始まった。

二年になって、それを止めさせたのはskeltonである。しかし、彼女は別に、慈善家ではなかった。ただ、bloodの人間に惚れたのである。

 他のいじめっ子たちと違ったのは、行為の最中、bloodが笑っていなかったことである。

みんなは、いかにも楽しそうな表情で、残酷な行為を完遂していた。

Bloodの、いかにも寂しげな表情がただ気になったのである。

   SKELTONはおもむろに、立ち上がると、BLOODとその取り巻きに近付いて行った。

 そこでは、いじめられている有桃小枝が、床に横たわっていた。小枝は、頭を踏まれたり、それこそBLOODたちに好き放題にされていたのだ。

 それをやっているのはBLOODとその取り巻き5人だった。その他大勢は、傍観者を決め込んでいた。

 因みに、2年になって一ヶ月、SKELTONも同様だった。

 (あいつが気になってたまらない)

ついに、こころの何処かで叫ぶ何かに答えたくなった。

 

 (でかい女よね)

 BLOODを見上げて思った。

「ちょっと、首が痛いじゃないの、背を低くしなさいよね」

思うだけでなく、ことばにしてみた。

「なんだよ!お前は!?」

「私の名前か?安藤沙織だ」

「名前なんて、聞いてないわよ」

楽しいいじめを中止されて、激しく反撃する少女たち。

「・・・・」

 BLOODはただ、面白そうに、SKELTONを見ているだけだ

 「お前たちは関係ない。はっきり言って、興味がない。私に用があるのは、あんただけだけだ」

 「私に?」

BLOODは首をすくめてみせた。

 「私は、あんたと友人になりたい。しかし、条件がある。」

「それは?」

 「第一に、この土偶たちと縁を切ること。第二にいまやっている行為をやめること」

取り巻きは、SKEKTONの常軌を逸した行動に、凍り付いていた。

BLOODはただ、笑っているだけだ。

  一方、子机は、自分の頭の上で起こっていることを理解できずに、狼狽するだけだった。空虚な教室内は、ただ、薄茶色の空気が漂っているだけだった。

    それから、ふたりが友人になるには相当の時間と、精神的な葛藤が必要だった。2年の二学期はまさにそれだけのために費やされたと言って良い。

 一一一一一一一一一一一。  

あれから、10年が経った。

 それなのに、この学校はなにも変わらない。あそこの木立も、あそこにあるポーチも・・。

「普通、自分から友だちになりたいって言って、条件つけてくる奴っていないよな」

「世界史上わたしだけじゃない?」

 小高い丘にポーチがある。ポーチとは、庭園に設えられた小規模の建物の事である。

ちなみに、ギリシア風を模したエンタシスと白亜の壁が特徴だ。

ふたりは、ポーチに立ち寄って、風を浴びた。ここからは綺麗な薔薇園が見える。薔薇を手入れしているのは在校生である。

  「そう言えば、おまえ、ことば使いが昔に戻っているよな」

 「おかしい?」

 「いや。かわいい」

「バカ、あんたが男役を押しつけてきたんじゃない」

さりげなく、ここ7年のことを要約して見せた。

  「すまん・・・・・」

 「・・・・ええい!めんどくさい!・・聞くまでもないことだが、ちゃんと裏ではなしはつけてあるのよね!?」

 「何のコトだ?」

 話が核心に近付いている。しかし、わかっていてそれを無視した。

 「私に言わせたいの?」

「・・・・わかった。いや、まったく無計画だ。これからふたりに話をつける」

「ふたり?」

「・・・レイとarfred

「え?あの子も取るつもり?」

  「その口ぶり、お前も狙っているのか?」

「私は、もうバンドやるつもりない」

 「女優に専念するのか?」

 skeltonは音楽活動の他に、多々の芸能活動に手を出していた。ヴァラエティ番組から女優まで・・。いま、うまくいっているのが女優業だった。NHKの大河ドラマのオファーが来るほどだった、それも主役級の役である。

 Father landが7年前にメジャーデビューしたとき、笙やひちりきを使った純和風な音楽とヴィジュアルに、世の人は惹きこまれた。

 「まるで、卑弥呼が降り立ったようだ」と音楽雑誌の記者は書いた。

それは言うまでもなく、bloodのことを指している。彼はしかし、音楽に徹して、その他の世界になびこうとしなかった。

 しかし、skeltonは違った。その美貌に美声は、完全に男性のカテゴリーに入るものだった。その美しさをマスコミやその他の世界がほって置くはずはない。そして、何よりも、まだ彼女も若かった。彼らに誘われるままに、聴衆のもとへ、美貌を振りまきだした。 

 

 しかし、そのことが両者の対立を生んだのである。

 

 「お前はピエロじゃないだろう?私はピエロのために曲を書くつもりはない。」

「私は、あんたのための楽器じゃない!永遠にあんたのために歌えるヴォーカリストなんていないさ!歌わせたいなら、機械にでも歌わせるがいい!そんな機械が発明されるまで生きていられたらな!よぼよぼのばあさんになっても、ステージに立っていればいいんだ!」

  二人の争いはえんえんと続くかと思われた。

 そのことは女性週刊誌をにぎわすことになり、ふたりの同性愛のはなしにまで発展した。

 それは、桑原ヒロキとの三角関係にまで発展した。ヒロキは、father landのインディーズ時代の会社の社長である。現在は、大手音楽会社と共同経営ということになっている。

  それまで殺し合いにまで発展しかねない惨状だった。しかし、それを冷めさせたのは、三流マスコミの報道だった。

  あまりにばからしくなったのだ。

 

「お前もあのCD聞いたろう?才能がある」

 「・・・」

CDとは、レイとarfredの恥態が録音されたあのCDのことである。

 

 「もういいわよ!father landはもう終わりだ。ただ、条件がふたつあるの」

「またかよ?」

 「今度は違うでしょう?」

 

「ああ、で?」

 「ひとつ、私が、father landを脱退する。」

「なぜだ?」

 「あたりまえよ、かっこいいところを全部、持っていくつもり?」

「・・・また理詰めだな・・・・自分は、陽動作戦か?そのうちにふたりを話を完成させろ?」

 「皆まで言うなっ.て・・・でもわかってくれたんだ?だけど、私の脱退はせめておおげさにやってほしいわ。あとの女優業にもかかわってくるから・・・・そして、もうひとつは・・」

「な!?」

 バシイ!

 白い乾いた音が起こった。

skelktonの平手打ちがbloodの頬を打ったのである。

「私をピエロって言ったことは許せない」

「わかっている・・それは悪いと思っている。すまん・・・・音楽がうまくいかなったことに苛立ったんだ」

 

  ふたりは、ポーチから見える校舎を見ている。赤レンガの豪奢な建てもの。それも今日で見納めだ。

  「バンドのことうまくいくといいわね」

 「ああ」

「・・・・」

「沙織、そろそろ帰ろうか」

「そうね・・・あ、待って、用があるから」

沙織は、何処かに消えた。

Bloodは駐車場で沙織を待っていた。

パルマーニが待ちかねていた。

エナメルに光る車体が動くと、ドアが開いた。

 乗り込むふたり。Bloodがキーを差し込んだそのとき、何か白いものが目の前に現れた。それは、skeltonの整った顔だった。

 「どうした?沙織?」

「さよなら・・・blood

「おい・・」

 Bloodは口を塞がれた。そのキスは、生まれてはじめて、bloodがされたキスだった。あるいみでファーストキスだった。いままで、男性が相手でも、受動的にそうされることを許さなかったのである。

 「・・・・・」

しかし、このときは、それを許した。それは沙織に対する謝罪の気持ちだったかもしれない。Bloodは口吻が柔らかいもので、覆われるのを感じた。それは甘い味がした。

 唾液が糸を引いて、長いキスは終わった。

「オネガイ、御幸、いやbloodskeltonは、今日で、あなたとお別れよ。忘れないでね・・でも・・彼女は・・」

「沙織、言わなくていい!いやskeklton、けっして、おまえは私の楽器なんかじゃない!いっしょにできなくなっただけだ。それは私の力量不足だったのだ。お前の活動をカバーできなかった。Father ladの狭い世界観にこだわったせいだ。お前の才能は、・・・」

「もういいよ・・・ぜんぶわかっているわよ」

沙織は、もはやskeltonではなくなっていた。整った顔は、男のそれではない。

ステージの上で、男顔負けのヴォーカルを見せ付けていたあの姿は、もういない。

 はじめて、彼女を視たとき、誰もが男だと思った。観客は、彼女の低音に焦がれた。

 Bloodは、ギターをを使って、skeltonと会話をしていた。

(このまま続けたら、じぶんも奴ももたないだろう)それはskeltonも同じだった。

ふたりの掛け合いに、観客は戦慄し、戦き、声援を送った。

 客はそれでいいが、当のふたりはたまったものではない。古代ローマは、コロッセオにおいて、死闘を繰り広げた剣闘士そのものだった。

 あるいは、他のメンバーはもっと怯えていたのかもしれない。

「こいつら、いつか殺しあうんじゃないか?」

三人はつくづく話し合ってきた。さいきんでは、もはやついていけないという結論に達したのである。

 「・・ふふ、早く車を出してよ」

「何?沙織?」

Bloodは沙織がおかしくなったのかと思った。沙織を見るとすでに涙は消えていた。

「何してるのよ、レッツゴー」

「そうか?」

 

 

 車はネオンサインを乗り越えて、いつのまにか、沙織のマンションに到着していた。地下駐車場へと向かう。まるで、地下宮殿へと赴くようだ。

 「じゃ、ここでいいわ」

 ドアが開く音がして、沙織は去っていく。

「さ、沙織!」

Bloodはたまらない気持ちになった。もはや、沙織は彼女から完全に離れてしまうのではないかと思ったからだ。

「すまない!」

Bloodが顔を上げたとき、既に沙織はいなくなっていた。

 

 ふと、沙織が座っていたシートを見ると、仮面が落ちていた。それに触れてみると、沙織の香りがした。

 

 



 


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