『記念の緑 序章』
巨大な静寂が支配していた。それは、嵐の前の静けさに、似ていた。
「―――――――――――――――。」
しかし、ここに猫の子、一匹さえいなかったわけではない。
3万人の若者が、ここに集っていた。そのうちの大半はある人物の登場を待っていた。
ここはとあるドームのついた野球場。しかし、今日は特別に、本来の目的をはたしていなかった。
「ぁ」
それはファンの誰かの一声だった。そこは声とは言えないかもしれない。
感動のあまりに漏れた息だったかもしれない。
幕が開いたのだ。
(ふん、しょせん、おまえはアイドルだろ?)
それは少数派の範疇に属する人物の思いだった。
しかし、両者の思いが交錯する時が来る。
「レイ!」「レイ!」 「レイ!」「レイ!」「レイ!」「レイ!」「レイ!」
半分の若者たちがその名を連呼する。それはなつかしさに満ちていた。
おのれが信仰する神様を目の当たりにした土民のようだ。
いま、5年ぶりに公開の場所に、あるヴォーカルが姿を現したのだ。
ステージの上には、髪の長い女性が立っていた。
「オレはここにいる資格がない」
しかし、その人物の声は、野太い男性のそれだった。
(レイ?何か違う・・・やっぱり、あのことが・・・)
二十歳くらいのOLらしき女性は、既に涙ぐんでいた。
「オレは人を殺した」
会場がぐあんぐあんとなった。皆が騒然となる。
「事実上、最上義之を殺したのは、オレだ・・・・・」
ジャーン。そのことばが終わったとたんに、ギターがうなりをあげた。それは、ヴォーカルをかばうようなメロディだった。
(え?Bloodのギターじゃない?あいつはたしか、アイドル時代の・・・だよな、あいつこんなにギターうまかったけ?)
そう述懐したのは安藤啓介である。
年のころ30歳。完全な音楽マニアだった。この会場の多数とちがい、ヴォーカル目当てではなかった。
啓介の目的は、bloodというギターリストだった。かって、彼が心酔したバンド、father
Landの中心人物だったのだ。しかし、突如として脱退してしまった。
彼はあのときのショックを永遠に覚えているだろう。
啓介は、早い話、blood目当てで、ここに来たのだ。だから、はやく、bloodが奏でる旋律を聴きたかった。ヴォーカルなぞ、この際どうでもいい。
どうせ、作曲はあいつなのだから・・・・。
「この曲は、オレの親友にささげる」
レイと呼ばれるヴォーカルは、野太い声で、広大な会場を震わせ始めた。
それは圧倒的な存在感で、啓介をはじめとする観客の五官に迫ってくる。まるで、巨大な金槌で全身を打たれたような錯覚を覚えた。
さて、彼らの一曲目が終わるまでに、説明したいことがある。
『記念の緑 SCENE001』
「周ちゃんのやつ、この分だと、後の荒れようが、思い浮かぶ。・・・怖いな・・・・一晩飲んだ暮れるだけですむかな?」
最上義之は、舞台の裏から毒突いていた。
伊藤アンナファンクラブと称された、この番組は、今夏、視聴率は27パーセントを記録した。
共通の価値という者が崩壊したと言われて、久しい昨今、この数字は異常である。
伊藤アンナとはカリスマと呼ばれる占い師である。
彼女の存在感を軸にした、この番組は、アイドルの歌唱あり、お笑い芸人と呼ばれるピエロどもの馬鹿騒ぎあり、円周作という作家を置いての、自称知的ショーありと、まさになんでもありだった。
義之は、このおばさんの作り笑いが大嫌いだった。この女は、カメラがいなくなるととたんに単なるオバタリアンと化すのだ。
そのことばが死語になってだいぶ経つが、この場合適当な訳語がない。
あえて、言うならメタボリックババアというのが適当だろう。
義之は、芸能人と呼ばれるピエロが大嫌いだった。こいつらにはプライドというものがないと思っている。あの連中は、じぶんのみっともないシーンをさらけだして、笑いを取っているのだ。
あいつらと、義之がマネージャーを務めるレイこと、北周一郎が同席していると思うと、身の毛がよだつのだった。
レイはこの年、19才になるアイドルである。グループ、CRYSTALSのヴォーカルをやっている。外見は、ほとんど中学生にしか見えない。美少年というにも若すぎる風体である。
昨今の小学生の女の子には、彼よりも大人びて見える子がいるのではないか。
しかし、そんな外見からは想像できぬ内面が潜んでいる。
いま、生番組のオンエアが進んでいる。レイは、可愛らしい笑顔を振りまいている。
それはカメラを通じて、数万人の少女たちに伝達されているのだろう。
しかし、その笑顔の裏で、レイは怒り狂っていた。
(オレはピエロじゃない!こいつらといっしょにされてたまるか!)
「レイくんは、じぶんのこと、オレだなんて言ったことないよね・・・あたし、いやなんだ・・・そんなの野蛮よ」
「うん・・・・ぼくもそんなのいやだな・・・」
そう女性アイドルに返しながら、心の中ではこう思っていた。
(ふざけんな!おまえ、野蛮って漢字書けるか?書けねえだろう?)
その実、天使の笑顔を維持しているのだ。
「あーあ、周の奴、限界越えてやんの・・」
義之は、レイの満面の笑みを見て、思った。
「はい、みんなご苦労さま・・・」
その一言があって、番組が終わる。
すると、伊藤アンナの化けの皮が剥がれる。
「おい、足湯を持て」
「はい・・・・」
凄みのある声に追いかけられて、マネージャが給水室へと走って行く。
数分経って、お湯を入れて戻ってきた。
「遅い!」
彼はしこたま、往復ビンタを食らって、倒れこんだ。
「足湯を持てか?いまは何時代だよ?」
義之は、レイに毒突いた。
「そうか?おい、義之、足湯を持て」
レイは真顔になったが、次の瞬間、ふたりは笑い転げていた。ふたりは、長い廊下を歩いている。廊下はすっかり、青の夜に染まっている。
「あのババア殺してやりてえ!」
また、真顔になったレイ、その視線のむこうには、ネオンサインがある。
「なあ、啓ちゃん、話、受けてくれるかな」
「いやだよ、お前の名前でやればいいじゃん」
義之の脳裏には、伊藤アンナの足が映っていた。それは、アンナの足が、人のマネージャーによって洗われている映像である。二本の大根。それも短く太い。
「聞いてんのかよ」
レイは声を荒げた。
「お前の名前でやればいい。芥川賞なんて、アイドルの名前で取れるもんじゃない。安心しろ。それに、文芸界がまさか、そこまで落ちぶれているとは思いたくないがな・・・昨今、本が読まれないけどな」
「番組で言っちゃったもん・・・・」
「ぼくは、国語の教科書もまともに読んだことありません」
義之が言い方を真似た。
「よく言うぜ、校のときの偏差値知っているぜ、みんなにバラそうか?」
レイは、秀才だった。しかし、その事実は家族と義之ぐらいしかしらない。
偏差値は、ある有名予備校の模試の結果。
学校の試験はほとんど赤点すれすれだった。
それもその学区の最低レベルの県立校においてである。
レイは子供のころから、周囲にたいして仮面を被り続けて来た。
「だからこそさ!啓ちゃん、お前の名前で持ち込んでくれ・・・あの内容も、アイドルレイの名前にもとる。」
「いやだ」
義之は、駐車場で車に乗り込むところで短く答えた。
「そうかい・・・」
レイは、眼鏡をかけると、ノートパソコンを取り出した。
「おい、外に見られるなよ、おまえは、白痴美で通っているんだからな」
義之の言う白痴美では、パソコンすらいじったらいけないそうだ。
「大丈夫さ、すいません、運転手さん・・・」
「わかりました、レイさん」
中年の男の声が響いたと思うと、窓にシャドーがかかる。
「これで、大丈夫だろ!ちょっと、黙っててくれ」
「はいはい」
「・・・・・・・」
暗い闇の中にポツと発生した空間。たとえ、高級車とはいえ、そこは閉ざされた狭い場所であることを余儀なくされる。
義之は、こんな風にレイと過ごしていると、ある錯覚に襲われる。それは、じぶんたちが世の中から完全に隔離されてしまうという感慨である。
―――――――――――そんな闇に、ノートパソコンが音を立てる。
小気味いい音。義之はそれを知的な音と呼んだ。
レイのブランドタッチは見事だ。これもけっして、彼ができていいはずのない技術であるが、たいていのビジネスマンは彼にたちうちできないだろう。
レイは、小説を書いている。
内容は、いじめである。しかし、中学生日記のように漫画チックだったり、変に青春しているわけではない。
また、学校批判だったり、社会批判でもない。もともと、レイは社会というものに興味ない。というよりも自分の外界に興味がない。
啓介だったり、グループのメンバーたち、あるいは音楽という物は、レイを大写しする鏡にすぎないと思っている。
要するに、おのれの内面を表わす触媒にすぎないのだ。
いじめに関してもそうである。それを否定するわけではない。
あえて言うなら、肯定する。
それがどんな反響を受けているかしったことではない。すでに世界は破壊されているのだ。みんな文明の残骸に住んでいることを自覚すらしていない。
それを報せようというのがレイの目的だ。
しばらくすると、レイは書きあぐねて、パソコンから目を離した。
外を見ようと思ったが、シャドーがかかっているために見えない。しかし、運転手が気を聞かせた。
しだいに明らかになる外界。
レイは、窓を通して、呼吸をした。それは外界との会話だったかもしれない。
夜のネオンサインは、レイにはどのように見えたのだろう。
『記念の緑scene002』
「たしかに構想としては面白いわな、転校生がいて、彼に架空のいじめをしかけるというところが新しい」
「オレは面白いで書いているわけではない・・・お前は分かっているだろう?」
「オレはとっくに卒業している」
「すまん・・・。」
レイは、暗闇の中で佇んでいる。その姿は、モニターの光だけに反射して、かろうじて浮かんでいる。
義之は、さいしょにレイに出会ったときのことを鮮明に憶えている。
いまから何年前になるだろうか。まだ携帯電話はなく、8ビットのパソコンを手に入れるのに20万円は必要だった。
当時、レイこと北周一郎が、義之の学校に転校してきた。
あいつは、まるで女の子のようだったと義之は述懐する。
レイが教師に誘われて、教室に入って、しばらくして、クラスの女子はみんなキャーとなった。
男子までもがヒョーと口笛を拭いた。
彼らが見たことがないぐらいに綺麗だった。しかし、人間というものは、見たことがない物を見ると、もたつくものである。脳がうまく反応できないのである。
レイの美しさが、彼らの常識外だったのだ。
朝のホームルームが終わって、教師がいなくなった。
すると、そのうちのひとりがレイの元へ歩み寄ってきた。
このクラスのリーダーのように見えた。
「北くんって言うのかい」
「そうだよ、きみの名前は?」
「相鳥いさおっていうんだ」
「いさおくんだね、これからよろしく」
その声は美しく、その後のヴォーカリストとしての人生を予言していた。
しかし、ここにそれを見抜けた奴は、義之を含めてだれもいない。義之は、完全に脅えきっていたのだ。
次の言葉はその理由を示す。
「北くんに、このクラスのペットを紹介したい」
いさおは言った。
「ペット?」義之はぞっとなった。この少年は綺麗な顏をすこしもゆがめなかったからである。
全く知らないところに連れてこられた人間の態度じゃない。
こんな言い方をされて、表情をすこしも変えないなんて普通じゃない。
義之は絶望的になった。
「じゃあ、こっちだよ」
いさおは、義之の席までつれてきた。
義之は標準よりもかなり太っていたし、容姿もお世辞にもハンサムとは言えなかった。
ぼさっとした外見は、浮浪児を思わせた。
しかし、汚れた髪も服も、いさおたちの暴力であることは明白だった。
外部の人間はそれを見抜けたであろう。
だが、いじめとは、集団自己催眠である。ある対象を汚いと思えば、汚いと思えるし、ある対象を変態だと思い込めば、そう思うようになる。
たとえ、最初は悪ふざけにすぎなかったとしてもだ。
いさおは、まるで生の喜びに満ち満ちているような顏をした。
「これだよ、このクラスのペットは。はやく処分したいんだけどね。さいきん、動物愛護とかうるさくってさ・・・だから、ペット以下の存在としては存在・をゆるしてあげてるんだ」
「それは、見上げた心意気だね、いさおくん」
その声は大河をも凍り付かせるほど、冷たかった。
「あ・・あ」
いさおが応じる。いさおは、この転校生に不思議なものを感じていた。
それはじぶんではコントロールできない何かだった。
これまで、いさおはこのクラス完全に掌握していた。
しかし、それが壊れることを予感させた。それを感じたのはこのクラスの数名にすぎない。
「おい、ダニ、新しいご主人さまに挨拶するんだ」
いさおは負けじと、いつものように命じた。
すると、義之は席から離れると、レイの元に正座した。そして、土下座する。
「ぼ、ぼくはこのクラスのペットでゴミです。なんでも言うことを聞きます。・・・・
さまは・・」
「おい、てめえは主人の名前を憶えていないのか?さっき、聞いただろう!?聞いてなかったのか?」
「え?」
「主人が、聞いているんだよ!」
いさおは、義之をまるでサッカーボールのように蹴り飛ばした。
義之は女子のところまでトンで言ってしまった。
「いやだな・・・相鳥、汚いな」
その女子は。義之を踏み付けにした。
「ぐぐぐ・・」蹴られた腹を押さえて苦しむ義之。そこへレイがやってきた。
「ねえ、まだきみの名前を聞いてなかったね」
「・・・」
「きみの名前だよ」
「ダニです」
「そう?きみはぼくと友だちになりたくないだね?残念だな?だから本名を教えてくれないわけだ」
義之はこのとき、唯一の味方が目の前にいることに気付かなかった。
「おい、そこの女子、彼の名前はなんて言うんだい」
「最上義之」
少女は、レイのた
だならぬ雰囲気に圧倒されていた。
だから本名を言ってしまった。
それがリーダーであるいさおの真意に反するものだと知っていても・・・。
「最上くんだね。きみは具合がわるいのかい?だから、ひざまづいたの」
「ち、ちがいます」
義之は、不思議に思った。レイの場違いな態度を理解できなかった。
「ぼくを医者だとでも思ったのかい?残念ながら医師免許は持っていないだけど、きみの苦しみを癒してあげることはできる。どう?ああ、心配することはないよ。ぼくは免許を持っていない。だから、お金をきみから取ることはできないんだ」
「・・・?」
「どうなの?」
「うん、おねがい」
「おねがいされましょう。」
すると、ただでさえ冷たいレイの顏がさらに冷たくなった。
次の瞬間、いさおに飛びかかったのだ。
床に押し倒すと、いさおの顔面やら腹やらに鉄拳を叩きつける。それはまったく無表情行なわれた。そのことが一同にさらなる恐怖を与えた。
いさおの頭ひとつ、小さくやせっぽちなレイが、完全に圧倒していた。
それらの行為は、クラスメートが止める暇を与えなかった。
その間にも、暴力行為は続いている。
いさおが義之に与えた永年にわたる暴力と屈辱的行為に較べたら、びびたるものだった。
しかし、あくまで一瞬のうちにまとめて暴力が行なわれた。そのために、周囲によりおおくの恐怖を与えたのである。
「オネガイ!もうやめて」
そんなレイに飛びかかったのは義之だった。
―――――――――――――以上のような経過があって、クラスの趨勢は決した。みんながレイについたのである、義之に対するいじめはあっという間に消滅した。
その結果、クラスのリーダーにレイが就任するはずだった。
しかし、そうはならなかった。
レイにその気がなかったのである。
いじめというのはストレス発散の方方にすぎない。
全クラスメートのストレスが、義之に向かっていただけである。そのベクトルが、こんどはいさおに向かっていくはずだった。
しかし、それはレイによって阻止されたのである。
いさおが義之に謝るというような、中学生日記的な事実はなかったが、ごく平和の内に、事態はすすんだ。
この後、いさおが誰かをいじめたというような話は聞かない。
夜の闇は進んで、月さえ眠っているようにさえ思えた。
レイは、長い髪を後ろに振り分けて、迫ってくる。
「なあ、義之」
「なんだ?」
「実はな・・・」
「さっさと答えろ」
「お前の名前で、持ち込みってわけにはいかないか?」
「だめだって言ったろ」
「そうは言ってもな・・ 社にそう予約しちゃったんだ。お前の名前で。携帯のばんごうとメアドも教えちゃった」
「!?」
あまりのことに硬直した義之は、もう何も言えなくなっていた。
『記念の緑SCENE003』
気分は絶好調 両手に 貴女への愛を抱えながら 校庭を何周でもしよう
気分は最高潮 両手に 貴女への愛を宣言しよう 貴女への花束を抱えながら
「やってられるかよ!!!ばかやろう!!」
「どうしたんだ?レイ?」
収録の途中で、突然絶叫し、わけのわからないことを喚きだしたレイ。周囲は、狼狽するしかない。
さらに床にマイクを叩きつけて暴れ続けるレイに、四人は、 を隠せない。常に冷静な、というよりは義之と家族以外には、本当の彼を見せてこなかった、というのが適当だろう。
ここは、とあるスタジオ。有名なバンドや歌手の収録を請け負っている。その手の人間なら知らない奴はいない。
音楽関係の連中ならみんな、いつかはこのスタジオで収録したいと思うらしい。そのように義之が語っていたのをレイは聞いた。
「レイ?」
義之は買い物袋を抱えながら、スタジオに入ってきた。中にはレイが注文したミネラルウォーターが四本入っている。
「義之、レイはどうしたんだ?」
ベースのMARXが聞いた。
「みんななら分かるだろう?コイツはもう限界なんだ」
「わかった口、聞くな!お前にわかるか?義之?ピエロにされる苦しみが!!」
もの凄いスピードで飛んできたマイクを受け取った。
義之は校のとき野球をやっていた。彼の学校は甲子園に行ったが、一回戦で負けたために控えのピッチャーだった彼には登板の機会がなかった。
何も、いまその技術を利用できるとは思ってなかったろう。
「じゃあ、影の苦しみがお前にわかるか?オレもここの四人もお前のために頑張っているんだ」
「ふざけるな!俺は抜いてもらおうか。俺はレイの影なんかじゃない。」
ギターのAlfredが反論した。
「やかましい!!オレもAlfredもMARXもWETもSSACREDも影なんだよ!いいか聞け!!!誰が曲を作っている?元は有名バンドやってたっていうだけの奴じゃないか!?むかしは知らねえが、奴はすでに老人だ!!もう才能が枯渇してやがるんだ!!オレたちは養老院か?どうして、あんな彼奴らのために、くだらない曲、くだらない詞を歌わなきゃならないんだ!!!!」
「もう!やめないか、さっさとやらないと次のバンドが待ってるんだぞ」
「そんなこと知るか。いくらでも空きがあるだろう!!」
割って入った義之にAlfredが反論した。しかし、次の義之の口が開いたとたんに態度がかわることになる。
「いいのか?Alfred、次のバンドは FATHER LAMDさ」
「な・・」
Alfredは憧れのバンドの名前を聞いて硬直した。
「はやく、撤収しよう。いくらでもあとで収録できるって話だよな」
「てめえは、FATHER LANDの前座でもやってやがればいいんだよ!!」
四人は明らかに驚いていた。レイのいつにない態度である。彼らが知っているレイのイメージはいいとこの坊ちゃんという感じだった。
レイは意識して、おのれを隠し続けた。そして、義之とふたりになったときだけ、裸になることができた。
「なあ、Alfred、レイは興奮している。明日にしてくれないか。元々その予定だったんだし・・」
「そうするか、みんな」
Alfredは言ったが真意は違った。ひとつは、憧れのバンドであるFATHER LANDに迷惑をかけたくなかったこと。そして、もうひとつは、レイへの疑念を残っていた。
(こいつはみんなを信用していない)
レイの変容を義之は驚いていなかった。確かにふたりは幼馴染ということもあるが・・・・。
Alfredはいぶかしげな視線を向けた。
6人がスタジオをあとにして、駐車場へと向かうのを、FATHER LANDのメンバーが目撃していた。
「ガキどもが、バンドのマネゴトしてんじゃん」
「最近の、マネゴトの中ではマトモなほうだとは思うけどな」
メンバーの中でひときわ身長がいのが、BLOODである
ちょうど、レイが車に乗り込むところだった。
まさに少女にしか見えなかった。
しかし、BLOODの中に、何かしらひっかかるものがあった。
(単なるアイドルにすぎないか)
「おい、またBLOODの美少年趣味が始まったか」
「そんなんじゃないさ」
BLOODは笑った。彫刻のような冷たい顏が、ふいに崩れる。すると、隠されていた女が垣間見える。それがギターは気に入っていた。メンバーのなかでは最年長の37才である。
彼らが、スタジオに入ったとき、見つけた物がある。
それは一枚のCDだった。
「ガキどもの忘れ物じゃねえ」
CDには、何も書かれていなかった。
「なあ、聞いてみようか。収録前の緊張を解く意味でさ」
―――――――――――。
そのCDはさきほど、レイが暴れた音が収録されていた。
「あははは、なんだあのガキども。たしかに素人だわさ」
「消えるのも近いかな・・・・ファンが聞いたらなくぜ」
「まあ、その素人好きにはいいかもな、カラオケで歌いやすいもんな・・・・?BLOOD、どうした?」
彼女は、彫刻のような顏をさらに硬直させていた。
「いや、なんでもない・・・ただの素人だ。収録をはじめようか」
BLOODは短く、話を終えようとしたが、内心奇妙な気持を否定できなかった。
その話をメンバーの前でするわけにはいかなかったのであるもし、そんなことをしたら、バンドの存続問題に発展する。
――――――――――。
BLOODは短く息を吐くと愛用のギターと会話が始める。他の3人も、思い思いに楽器と会話を始めた。
ヴォーカルのSKELTONは、発声練習を始めた。